月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 華凛は受話器を戻した。
 また電話が鳴る。
 華凛は自分でとった。
「何よ! 忙しいの!」
「——ごめん」
 電話から聞こえたのは、愛しい人の声だった。
「またかけ直す」
「ちがう、待って!」
 晟也はそのまま電話を切ってしまった。
 なんで会社にかけてくるの。
 すれ違った通話を恨む。
 かけ直す気にもなれず、スマホでメッセージを送る。
 直前に変な電話が来たから、間違えてしまったの。ごめんね。
 送信を見届けると、見知らぬ番号から着信があり、スマホが震えた。
 緊張しながら出る。朔だった。
「華凛。俺は役に立てたと思っているけど、違う?」
「一応礼は言うわ。ありがとう」
「じゃあお礼に食事にでもつきあってもらおうかな」
「お断りします」
「待って、切らないで」
 電話を切ろうとした直後に、彼の声が響く。
「君の婚約者も一緒に。それならいいだろう?」
「あなたはお礼をしてくれたのよね? お礼に対してお礼?」
「そう。お礼に対してお礼する、日本の美しい文化だろ?」
 笑い含みに言われて、華凛は顔をしかめる。
 だが、律儀な性格の華凛は、それを無下にすることはできなかった。

 数日後の夜。
 車の中で、華凛はしょげていた。
「ごめんね、晟也。私のせいで」
「いいんだ」
 後部座席に2人で座り、晟也は彼女の頭を抱く。
 彼の運転手は目的地である高名なレストランを目指す。
 会員制で、客にはアルファが多い。
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