月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 鳳城朔はその個室を予約していた。
華凛から朔に食事に誘われたという連絡を受けたあと、晟也が朔とやりとりした。
 予期せぬヒートのために頓服薬を用意しておいてくれ、と彼は言った。
 何せ、彼女は俺の運命の番だから。薬で抑えられるかどうか。
 電話越しでも彼の薄ら笑いが伝わるようで、晟也はいらついた。
 晟也もまたアルファであり、朔にヒートが起きたら晟也も無事ではいられない。
 だが、朔はまったく晟也が眼中にない様子だった。
 渡すものか。
 晟也はその手にある温もりを離すまいと力をこめた。

 レストラン『ブリエ』は静かな郊外にあった。
 ブリエはフランス語で輝く、光る、という意味がある。
 こぎれいな洋館を改築したレストランだった。
 落ち着いた照明に照らされた庭は緑と花に溢れていた。
 中に入ると、店員が「鳳城様がお待ちです」と個室へと案内してくれた。
「お待ちしていましたよ」
 入った瞬間に、かすかに甘い芳香が鼻をくすぐった。
 窓は開けられていた。
「ちゃんと薬は飲んできましたね? 私も飲んできましたよ」
 人を食ったような言い方だった。
「お招きいただきまして、ありがとうございます」
 華凛を背にかばい、晟也は言った。
 朔はそれを見て眉をあげた。
「ああ、そういうこと」
「何がだ」
晟也が朔を睨む。
「君がいるから、華凛は小さくなってしまうんじゃないのかな、と思ってさ」
「いきなり失礼だな」
「失敬。こういう物言いで敵ばかり作ってしまいます」
 朔はくくっと笑った。
「さあどうぞ」
 彼がすすめると、2人は警戒しながら席についた。
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