月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
朔に会ってもいつかのような強烈な衝動は訪れず、華凛はホッとした。
注文を終えると、華凛は仕事で助けられたことへの礼を述べた。
「今後、安定供給になるように君の会社から働きかけたらいいんじゃないのかな。国産のほうがお客さんも喜ぶでしょう」
朔はにやにやと笑いながら言った。
「仲介料は?」
華凛が聞くと、朔はまた笑った。
「いらないですよ」
よく笑う男だ、と華凛は油断なく彼を見る。
「そんなに見つめられると照れますよ」
朔の言いように華凛は顔をしかめた。
「どういう下心があるんだ?」
晟也が警戒して言う。
「単に、仲良くなりたいだけです。それだけじゃダメかな?」
「そうやってオメガであることを利用して仕事を増やしたのか」
「ちょっと」
華凛が咎めると、朔は笑って返した。
魅力的な笑顔だった。華凛は目をしばたいた。
「俺はそれくらいのほうが好きだけどな。本音で話せるってことだ」
口調が砕けた。
「下心はある。仲良くなりたいっていう下心。オメガであることを利用したことはある。が、体を使ってはいないよ。君たちがアルファを無意識に利用しているのと同じように、オメガを利用しただけだ。ある種の才能だからね」
あけすけに話す朔に、華凛と晟也は顔を見合わせた。
ソムリエがワインを持ってきて、剣呑な会話は途切れた。
「ここのワインはおいしいんだ。食事も最高。禍根は忘れて楽しもう」
彼はグラスを掲げてそう言った。
彼の言うとおり、食事はおいしくてワインもおいしかった。
乱暴な言動はなりをひそめ、彼は楽しげな話題を提供し、2人を楽しませた。
食事会は円満に解散を迎えた。
迎えの車に乗り、朔に別れを告げる。
「ちょっと酔ったみたい」
華凛はつぶやいた。甘い香りが残っているかのようだった。心までとろけていくような夢見心地になっていた。