月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
「俺もちょっと酔ったな」
 そう言って、お互いにもたれかかる。
「ほんのわずかにだけど、フェロモンが漂っていた。2人してあてられたかな」
 だけど、華凛にはそんなことはどうでもいい。
「私、あなたといられて幸せ」
 うっとりと、華凛は言う。
「俺もだ」
 晟也はいつものように彼女の頭を抱いた。
 華凛はほっとした。
 やはりあれは間違いだったのだ。
 朔が言っていた、運命の番というのは。
 だってほら、こんなに幸せだもの。
 華凛が彼のもう片方の手を握ると、彼はぎゅっと握り返してくれる。
 そのぬくもりが嬉しくて、華凛は目を閉じる。
 華凛は、だから、気が付かなかった。
 晟也が険しい顔をしていることに。

 その夜、1本の電話が朔と晟也をつないだ。
 2人はひそやかに会話をして、静かに通話は切れた。

 華凛に婚約破棄の連絡が来たのは、翌日の夜のことだった。
 自宅のリビングで苦虫をかみつぶしたような顔の父からそれを告げられ、華凛はショックを受けた。
「嘘でしょ」
「こちらはもう了承した」
「そんな!」
「慰謝料は後日、弁護士を通して渡すそうだ」
 華凛はへなへなと座り込んだ。
「オメガみたいな反応をするな」
 厳しく父が言う。
 華凛は歯をくいしばった。
 ショックを受けることにオメガもアルファもないじゃないか。
 だが、反論は胸のうちにだけ響いて言葉にすることはできなかった。
「いっそ本当にオメガだったら、婚約破棄にはならなかっただろうに」
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