月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 父の言葉が彼女の胸を引き裂く。
 昔からいろんな人に言われて来た。
 オメガっぽいのにアルファなんだね。
 アルファなのに弱そう。
 アルファなのに。
 いっそオメガなら。
 失望されてばかりだった。
 彼を失望させてしまったのだろうか。
 唇を奪われたから。
 ひとときでもオメガに心を奪われたから。
 昨日だって、あんなに仲良くしていたのに。
 幸せだって言ったら、俺もだ、と言ってくれたのに。
 抜け殻のようになってしまい、泣くことすらできなかった。
 そんな華凛を置き去りにして、父は無言でリビングから立ち去った。

 よろよろと出勤した華凛は、そのやつれ具合に秘書に驚かれ、心配された。
「お休みになってください。予定はなんとかします」
「大丈夫だから」
「大丈夫じゃありません。そんな姿で人に会ったら、わが社のイメージが悪くなります」
 ぴしゃりと言われて、華凛はへこんだ。
 秘書は人に会う仕事をすべてキャンセルした。
 この際だ、と華凛は社内でできる仕事を行った。
 仕事をこなして昼食を食べて一息つく。秘書がコーヒーを淹れてくれて、チョコをひとかけ添えてくれた。
 温かいコーヒーが、心を少しほぐしてくれたようだった。
 そうすると、どうしても婚約破棄を思い出してしまう。
 あまりにも突然だった。
 自失から抜け出した直後に晟也に電話した。
 だが、つながらなかった。
 メッセージももう届かない。
 何度もかけたが、発信履歴が増えるだけだったのであきらめた。
 会社からかけたらつながるだろうか。
 一瞬、そんな誘惑にかられるが、ぐっとこらえる。
 それで話ができるなら、もうとっくにプライベートの電話がつながっているはずだ。
< 15 / 45 >

この作品をシェア

pagetop