月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 朔の会社の受付嬢だ。
「こちらにいらっしゃったのですね」
 彼女はさわやかな笑顔を彼女に向ける。
 華凛は首をかしげた。
 彼女は華凛に抱き着いた。
 甘い香りがぷんと匂った。
 頭がしびれはじめる。思考力がなくなっていく。
「私のフェロモン、どう?」
 とろんとし始めた華凛の腕をつかみ、ベンチに座らせる。その隣に受付嬢も座る。
「私は発情してきたわ。あなたのために誘発剤を飲んできたのよ」
 はあはあと荒い息で彼女は華凛を見る。
 油断した、と華凛は悔しく思う。
 最近は忙しく仕事をしていて、いつも人と一緒にいる。
 子供のころと違って痴漢や暴漢にも合わなくなっていた。
 一人前だと、独り立ちした証拠を親に見せたくて、そんな理由でボディーガードを解任したばかりだった。
 母は心配して1人だけでも、と言っていたのに。
 言うことを聞いておくべきだった。
 まるで保護者と子供だ。
 朔の言葉が蘇る。
 ああ、自分は常に守られていた。
「晟也……」
 愛しいはずの人の名を呼ぶ。
 なのに浮かぶのは朔の顔。
 どうして。
 頭が朦朧としてくる。
「ほら、私のこと欲しいでしょ?」
 受付嬢がキスするべく顔を近づけて来る。必死に顔を背ける。
「やめて……」
「我慢しなくていいのよ」
 華凛は思わず彼女を抱きしめる。このまま1つになりたい衝動にかられる。
 違う。
 この人は、違う!
「頑固ね。ほかのアルファはすぐだったのに。女だからかしら」
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