月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 朔が優しい笑顔を返す。
 ただそれだけで喜びが駆け抜ける。
 いつのまにか車が近くに止まっていた。屋根の開いたコンバーチブルだ。
 運転してきた人が降りて、鍵を朔に渡す。
 華凛を助手席に乗せて、朔はその運転席に乗る。
「その女は警察に突き出しておけ」
 警備員に言いおいて、朔は車を発進させた。
 
 朔は長いこと車を走らせ、海沿いの公園の駐車場に止めた。
「落ち着いた?」
 華凛はうなずく。
 激しい衝動は消え、今は脱力に支配されていた。
 もう日が暮れかけている。
 頓服を飲ませ、彼女が落ち着くまで彼は何時間も車を走らせたのだ。
 海風が心地よい。
「動ける? ちょっと歩こう」
 彼女がうなずくと、先に降りた彼は助手席側のドアを開けて手を差し伸べてくれた。
 その手をとる。
 それだけで鼓動が跳ねる。血が熱く燃えるようだ。
「何か飲んだほうがいいね」
 コーヒー、と彼女が言うと、彼は缶コーヒーを買って彼女に渡してくれる。彼はブラックを買った。
 少し歩いた先に、海を眺められるようにベンチが置かれていた。
 そこに2人で座り、缶コーヒーを飲む。
 空にはすでに藍が濃く、沈みかけた太陽に海の端が最後の光を帯びていた。
 ゆったりとした波の音が広がっている。
 隣に朔がいる緊張は、その響きによってゆるゆるとほどけていった。
「ありがとう、助けてくれて」
「間に合って良かった」
 彼の微笑に、華凛の心はさらにほどけていく。
「でもなんでわかったの?」
「わからない。ただ、無性に嫌な予感がしたんだ」
 言い知れぬ不安に耐えきれなくなり、受付に華凛が退出した時間を聞いた。
 答えを聞いて、もうタクシーでも拾って帰っているだろうと思った。
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