月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 だが、と彼は落ち着かない。
 2人体制の受付嬢が1人減っていることに気が付いた。
 もう1人は、と聞くと、華凛が帰った直後にオメガの受付嬢が体調不良で帰ったと言う。
 不安は強まった。
「彼女、社長にアルファのお客様が来たあとによく消えるんです」
 不満そうにベータの受付嬢が言った。
「彼女は……訪問者はボディーガードを連れていたか?」
「いいえ、おひとりでした」
 それを聞いて、飛び出した。
 玄関を守っていた警備員に付いて来るように命じた。同時に電話で秘書に命じて車を用意させた。なんとなく、必要になる気がした。
 そうして、大通りにいた2人を見つけたのだ。
 スマホのGPSを頼りに、秘書はうまく車をまわしてくれた。
「彼女もバカね」
 と華凛はつぶやく。受付嬢を蔑む色はなく、むしろ自嘲の響きがあった。
 朔が彼女を見ると、彼女は悲しそうに笑った。
「私、アルファとしては不完全なの」
「どういうことだ?」
「アルファなのに、体は完全に女性なの」
 通常、アルファの女性は男性と同じ生殖機能がついている。だが、彼女にはそれがない。
 オメガの男性が妊娠できるのと同じように、アルファの女は相手を妊娠をさせることができる。本来ならば。
 大丈夫、稀によくあることです、と医者は矛盾を口にした。
 女性としての機能はありますし、確かにアルファです。問題ありません。
 安心させるように告げるそれは、彼女には残酷に響いた。
 だから自分はほかのアルファのようではいられないのか。
 それがないから。
「だから私と彼女がその……そういうことになったとしても、私は彼女を満足させられない」
 そうか、と答えて朔はコーヒーを一口飲んだ。
「そのせいか私はアルファとしては弱くて。だからフェロモンにはほかのアルファよりは耐えられるみたいだけど」
 だから、パーティー会場では人より早く動いて彼を避難させられた。
「そんなの俺は気にしない。人はみな不完全なものだろう」
「いいことばっかり言って」
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