月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 朔はぎらついた目で彼女を見る。
「待ってもダメよ」
 裏切りはずっとついて回ってしまう。2人の中のわだかまりになり、大きな波となっていつかきっと2人を飲み込んでしまう。
「……これだけは答えてくれ」
 彼は絞り出すように、言葉を吐き出した。
「君は俺を愛してくれているか」
 華凛は目をそらした。
 やがて、弱々しく首をふる。
「無理なの」
 それだけを、ようやく答えることができた。
 朔は深くため息をついた。
 残照は徐々に暗くなり、2人を闇に沈める。
 寄せては返す波が、次第に見えなくなる。
 古い外灯が、ジジ、と音をたてて灯った。
 朔は黙って立ち上がると、コーヒーの缶を拾った。
「帰ろう」
 暗がりで背を向けた彼の表情は、華凛には見えなかった。

 帰りの車の中で、2人は無言だった。
 2時間を居心地悪く過ごし、車は彼女の自宅前に到着した。
 大きな門の前に車をつける。
 朔はギアをニュートラルに入れて、サイドブレーキをかける。
「今日はいろいろとありがとう」
 車を降りて、華凛は言う。
 ああ、と朔は答える。
 それきり、沈黙が降りる。
 門灯で照らされた彼の顔に表情はなかった。
 華凛はぎゅっと拳を握りしめた。
「ありがとう。さよなら」
 意を決して、背を向ける。
 朔が車のギアを入れる音が聞こえた。
 車が発進する。
 マニュアル車らしいグラデーションのあるエンジン音を響かせながら、離れて行く。
< 28 / 45 >

この作品をシェア

pagetop