月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 穏やかに晟也は笑う。
 意図しないフェロモン放出を抑えるための薬が存在している。アルファのためにはフェロモンの反応を抑える薬がある。だが、薬は万能ではないため、ヒート期間中のオメガは外出を控えるのが一般的だ。大半の会社がヒート休暇を認めている。
 だが、彼女がオメガを避けたいのは別の理由があった。
「だけど君が怖がるのもわかる。ご本人登場前に帰ってしまおうか」
 華凛のトラウマに配慮して、彼はまた笑顔で彼女を包む。
「ありがとう。ごめんね、わがままで」
「姫のわがままには応えるのが男と言うものだよ」
 優しい笑みに、もう、と肘で彼の脇腹をつついた。
「そんなに怖いならボディーガードを解任しなきゃよかったのに。静佳(しずか)さんだっけ。人柄とか能力とか、問題はなかったんだろう?」
「いつまでも守られてばかりじゃダメだと思って」
「強がらないで。人に頼ることは悪いことじゃないんだから」
「ありがとう」
 晟也の優しさがうれしくて、その手を握る。晟也はぎゅっと握り返してくれた。
 そのときだった。
「鳳城朔だ」
「来たぞ」
 周囲の人々がさざめく。
 人々が見る方向に目をやると、姿勢の良い青年が立っていた。
 彼はクールな顔立ちをしていた。黒髪が彼の毅然さを際立たせている。仕立ての良いダークグレーのスーツを着こなし、穏やかに周囲の人に挨拶している。
 瞬間、目が離せなかった。
 そこだけ、輝いて見えた。
 気配に気付いた朔が振り返る。
 視線がからんだ。
 熱い電流が全身を駆け抜ける。
「君……」
 朔が華凛に話しかける。
 呆然とその声を聞いた。
 頭の奥がしびれたようだった。
 ただ彼を見つめている。
 甘い香りが鼻をくすぐり、頭のしびれが強くなった。
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