月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
夜、仕事を終えた華凛は静佳を連れて指定されたホテルに向かった。
呼び出されたのは、先日、オープンのパーティーが行われていた鎌倉の海辺のホテルだった。
指定の部屋に行く。最上階のロイヤルスイートだった。
入った瞬間に甘い匂いが鼻につく。
顔をしかめ、鼻をハンカチで抑える。華凛と違って、静佳は平然としていた。
広い部屋だった。おちついた調度品が居心地の良い空間を作っているはずなのに、華凛はまったく落ち着けない。
彼女の心を波立たせる調本人が、そこにはいたからだ。
朔はソファに座ったまま、立ち上がりもせずに彼女らを迎えた。
「よく来たね。さあ、座って」
からかうような声音だった。
「あなたが呼びだしたくせに」
立ったまま、華凛は朔を睨みつける。
「棘があるなあ」
ニヤニヤと朔は笑う。初めに会ったときのような意地悪な笑い。
私たちは他人なのだ、と華凛は唇をかみしめる。
「そちらは?」
「ボディーガードです。同席させていただきます」
静佳は厳然と言い放つ。
「困るな、プライベートな用件なんだ」
「守備義務があります。ここでのことは漏らしません」
朔はニヤリと笑った。
「引き抜きたくなるね、君。恋人?」
「くだらない詮索はやめて」
華凛が口をはさんだ。
「いいけど。今日はね、俺の婚約者を紹介しようと思って」
華凛はまた顔をしかめた。
求婚を断ったことへの腹いせなのか。
「こっちへ来て」
呼び掛けられ、現れた人物を見て息を飲む。
「晟也、どうして」
華凛の元婚約者が、そこにはいた。
「すまない」
青ざめた顔で、晟也はうつむく。
どうして謝るの。
どうして2人が並んでいるの。