月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 疑問がぐるぐると渦をまく。
「サプライズ! すごいでしょう?」
 朔は面白そうに笑う。
 思わず1歩を踏み出した華凛の前に静佳が立ち塞がる。
「おっと、これ返すね。不安なら被ってなよ」
 朔は防毒マスクを投げてよこす。静佳がそれを受け取り、床に置いた。
「君に何かしようって気はないよ。ただ、見届けてもらおうと思って」
 悪い予感しかしない。
「何をする気なの」
 声は自然、緊張をはらむ。
「俺は彼と番になる」
 絶望的な気持ちで、華凛はそれを聞いた。
「考えてもごらんよ。君と出会ったとき、直前まで彼と一緒にいた。つまり彼の残り香が君にあった。それを君の香りと勘違いして運命の番だと思った。でも本当は彼が俺の運命の番だった」
 そんなバカな、と思う。
 では彼女に吹き荒れたあれほどの激情はなんだったのか。
 ただのアルファの本能で、運命などではなかったのか。
「君にわかってもらおうと、君の前で彼に噛みついてもらうことにした」
 何を言っているのか。
 言葉で殴られている気分だった。
「晟也、本当に……?」
 彼は答えない。
 では、婚約破棄の本当の理由は、彼の心変わりだったのか。
「あのときはひどいことを言った。すまない」
 にやにやと謝る朔。
「君たちは確かに愛し合っていた。そこに俺が割って入った」
「嫌、聞きたくない」
 華凛は耳をふさぎ、うずくまる。
「お嬢様、帰りましょう」
 静佳が声をかける。
 さあ、と腕を引っ張って立たせる。
「俺は君の隣に立つ資格がない」
 ぽつり、と晟也は言った。
< 31 / 45 >

この作品をシェア

pagetop