月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
「どういうこと?」
「こういうことだ」
 遮るように、朔は言う。首筋をみせつけて。
「さあ、彼が俺の首を噛むのを見届けて」
 なんという嫌がらせ。
 わなわなと震えた。
 胸が急に何かでつかえたように呼吸がうまくできない。
 喘ぐように胸を抑える。
 呼吸が荒くなる。
 甘い香りが侵入してくる。
「さあ」
 挑戦的な目で華凛を見ながら、彼はうなじを晟也にさらす。
 晟也もまたアルファだ。
 この甘い香りに本能が掻き立てられているはず。
 葛藤が全身から溢れている。
「やめて……」
 彼女の懇願はまるで悲鳴のようだった。
「お嬢様」
 静佳が華凛を抱き留める。
 晟也が朔に、ふらりと1歩近づく。
「ダメよ!」
 華凛は静佳を振り切った。
 さらされたうなじ。
 そこだけを目掛けてとびかかる。
 晟也をはねのけ、がぶりと噛みつく。
 唇に温かい感触が伝わる。朔の体温だ。
 ああ、と華凛は涙を零す。
 負けてしまった。
 崩れるように膝をつく。
 とられたくない。その一心で、衝動に負けた。アルファの運命に負けた。
「お嬢様!」
 叫ぶ静佳を、晟也が手で制する。
「華凛」
 晟也が呼びかけると、華凛はのろのと顔を上げた。
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