月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
「君は幸せになっていいんだよ」
 優しい微笑。
「俺は君が思うほどいい人じゃない。気持ちに素直になって、2人で幸せに」
 返事を待たず、彼は歩き出す。
「行こう」
 晟也は静佳を促す。
「しかし」
「俺たちはもう邪魔ものでしかない」
 静佳は華凛と朔、そして晟也を見比べる。
 華凛は呆然としている。ボディーガードとして、彼女を置いて行くわけにはいかない。
 だが。
「馬に蹴られる前にさ」
 晟也は弱々しく笑った。
 静佳は晟也のことを知っている。華凛のガードの際に何度も顔を合わせ、彼のことを理解している。現在は婚約を破棄されていることも知っているが。
 その彼が、出て行こうと言っている。
「大丈夫なのですね」
「大丈夫だ」
 晟也はさあ、と再び促す。
 ためらいながら、彼女は晟也とともに退室した。

 残された華凛は、まだ呆然と床を見つめていた。
「華凛」
 温かい声が降ってくる。
「華凛」
 朔は床に座り込んだ彼女の名を呼び、抱きしめる。
「君がほしい」
 朔がささやく。
 華凛は呆けたように朔を見上げる。
「試すようなことをして悪かった。何をしてでも君がほしかった」
 試す、とは。
 華凛の頭は理解を拒否して、言葉が脳に響かない。
「君が俺を求めてくれることに賭けた」
 どういうことだろう。うまく思考がまとまらない。
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