月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
「君だけが俺のすべてだ」
 甘い香りが頭の奥、体の隅々にまで浸透していく。
 抗うように立ち上がろうとするが、腰が砕けたようになって力が入らない。
 運命の番なんて冗談じゃない、と思っていた。
 運命なんて、あきらめるときに使う言葉だと思っていた。
 なのに。
「君は俺の運命の番だ」
 彼女の敗北感など軽々と飛び越えて、彼は言う。
 まるで勝利宣言だ。
 2人の愛が勝利したのだと。
「離さないからな」
 彼は彼女を抱きしめてそう囁く。
 抗いようもなく、彼女はその声に溺れる。
 頭の奥がしびれたように思考できなくなる。
「本能以上に愛してる」
 彼の言葉に、目を閉じる。
 彼女のあふれる涙を、彼はその唇で受ける。
「君の全てを俺のものに」
 もう逃れられない。
 1度負けた心は、たやすく挫けた。
 彼女はあきらめた。それは安堵に似ていて、運命よりも愛の形をしていた。
 嵐のようなキスが、彼女をかき乱した。

「あちらへ」
 朔に促され、彼女はよろよろと立ち上がった。
 なんとか歩いてはいるものの、まるで夢の中にいるように足元がおぼつかなくて、彼の支えなしでは歩けない。
「まどろっこしい」
 彼は彼女を抱き上げる。
 そのままベッドに横たえる。
「待って、シャワーを……」
 夢うつつのまま、彼女は言う。
「ダメだ」
 彼は上着を脱ぎ捨て、ネクタイを取り去る。
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