月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 あれほどの反応が出るとは思っておらず、動揺して逃げるのが遅れた。
 その彼を、彼女は再び助けてくれた。
 連絡先は調査会社に依頼して、ずっと前に手に入れていた。
 ようやく使うときが来たと思った。
 タイミングよく彼女の会社の窮地を助ける手伝いができた。
 それで、食事会の口実を作ることができた。
 彼女が婚約していることは知っていた。
 食事会を提案したあのとき、朔は幸せそうな2人を見ることで自分の気持ちに蹴りをつけようと思っていた。
 そうして、思ったとおり2人は幸せな恋人同士だった。
 きっぱりあきらめよう、と思った。それができるかどうかは自信がなかったが。
 晟也から電話が来たのは、その夜遅くのことだった。
「借りを返す」
 出るなり、彼はいきなりそう言った。
「どういうことだ」
「気付いているだろう。俺たちは同じ大学だった」
 言われなくても、朔は気付いていた。
 大学で、予期せぬヒートに見舞われたとき。
 華凛はボディーガードを使って朔を建物の陰に避難させてくれた。
 しばらくして、もう大丈夫だから、と彼はボディーガードを返した。
 その後のことだった。
 晟也が通りかかってしまったのだ。
 ヒートの余波でまだフェロモンは放出されていた。
 まだ若い晟也はたやすく衝動に屈した。
 人気がない場所だったのも災いした。
 晟也は朔に襲いかかった。
 朔は反撃し、晟也を殴った。
 その衝撃で晟也は我に返り、すまない、と謝って立ち去った。
 そのときのことを言っているのだ、と朔はわかった。
 同じあのとき、華凛は朔を助け、晟也は彼を襲った。
「あんなものを借りと思わなくてもいい」
「だが」
 晟也は言い淀む。
「君たちは愛し合っているんだろう」
 朔は言う。
< 36 / 45 >

この作品をシェア

pagetop