月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
「そうだ。……そうだと、思っていた」
 悲痛な声だった。
 あのときのことがきっかけで、晟也は彼女に手をだせずにいた。
 彼女は単純に晟也が結婚するまではと誠実に待ってくれているのだと思っているようだったのだが。
「俺はあのとき彼女を裏切った。なのにずっと彼女に黙って騙して来たんだ。今までその事実から目をそらして来た。君を見て、俺は彼女の隣に立つ資格がないと思い知らされた。彼女に本当のことを言って婚約を破棄する」
「飲み込んで黙っておくのも愛の1つだ。わかっているだろう?」
「それでも、だ」
「言えば華凛を傷付けるだけだ」
 朔は晟也を止める。
「言わなければならないんだ。彼女のためにも」
 自分自身に引導を渡すためにも。
「正直であることと誠実であることは違うぞ!」
 朔は声を荒げた。
「君たちは惹かれ合っている。これは事実だ。俺が消えればうまくいくんだ。それが俺の彼女への愛の形だと、わかってくれないか?」
 自嘲するような響きに、晟也の覚悟を見た。
「……わかった。だが、借りを返したいというのなら、あのことは言わないでくれ。俺の名誉にかかわる」
 電話口で、ふふ、と笑う気配が伝わって来た。
「君は存外、優しいな」
 華凛を守るとともに、晟也を守るための沈黙だ。
「優しくなんかない」
 ぶっきらぼうに朔は答える。
「明日、婚約を破棄する。あとは君たちの自由恋愛だ。検討を祈る」
 そう言って、晟也は通話を切った。
 朔は複雑な気持ちで通話のきれたスマホを眺めて心の中で問う。
 君は罪悪感に負けただけではないのか。本当にそれは愛なのか。
 その後、ダメだった、と朔は笑いながら晟也に報告した。
 それを聞いた晟也が一計を案じた。朔は反対したのだが、結局、彼の案にのって華凛を呼び出した。
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