月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 それゆえの婚約破棄に違いなかった。
 彼は優しい。どこまでも。
 申し訳ない気持ちと感謝とが、波のように繰り返し彼女に訪れる。
「何を考えてる?」
 黙り込んでしまった華凛に、朔がたずねる。
「自分を責めてるんだろう。君は優しいから」
「優しくなんか……」
 言いかけた言葉を、朔は唇で塞いだ。
「晟也は俺たちを祝福してくれた。その事実を2人で大事にしよう」
 華凛は目を閉じて朔にもたれる。朔はその肩を抱いた。
「……聞いてもいい?」
 華凛が顔を上げると、朔は優しい顔に疑問を浮かべた。
「何?」
「あの女の人、どうなったの?」
 とたん、彼は険しい表情を浮かべた。
「話しても大丈夫か?」
「自分に関わることだから」
 大丈夫だから、と華凛は念を押した。
「嫌になったらすぐに言ってくれ」
 朔の前置きに、華凛はうなずく。
「警察につきだしたが、厳重注意で返された。罪にはならなかった」
「そう」
「だから、彼女は海外へ転勤させた」
 華凛は首をかしげる。
「やったことは懲戒解雇にするレベルだと思うが、それだと何をし始めるかわからない。物理的に遠ざけた方がいいと思ったんだ」
 受付嬢は朔の熱心な信奉者だった。神格化すらしていた。
 だから、彼に近付くアルファが許せなかったのだ。
 アルファを誘惑することで、朔を守っているつもりになっていた。
 今までは男のアルファだった。
 誘惑はたやすかったようだ。首筋だけはかまれないようになんとしてでも守っていたらしい。
 だが、女のアルファが朔を訪れ、彼女は焦った。今までと同じようにはいかないかもしれない。
 だから、華凛に首を噛ませようとした。
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