月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 その剣幕に華凛は驚き、うろたえた。父がこんな反応をするとは思っていなかった。
 怒鳴る父を兄が抑え、母が必死に謝り倒し、朔はニヤニヤと笑う。カオスだ、と華凛は思った。
 それでその場は解散となった。
 夜になり、父が寝室に行ったあと、リビングで一緒に紅茶を飲みながら、華凛は母に聞いた。
「お父さん、オメガが嫌いなのかな」
 不安そうに聞く。
「そんな人じゃないわよ。友達にオメガの人がいるって言ってたし」
「じゃあ、なんで……」
「よくあるあれよ。娘を嫁にやりたくない父の葛藤」
 あっさりと母は言い切る。
「そうなの?」
「婚約破棄から1カ月じゃない。あなたが自棄になってるんじゃないか、弱ってるところにつけこまれたんじゃ、って心配なのよ」
「お父さん、私のこと嫌いなんじゃ……」
「そんなわけないじゃない」
「いつも私には厳しくて」
 言うだけで悲しくて、顔を伏せる。
「あなたが不完全なアルファだって自分のこと気にしてるから。だからアルファらしくなれば気にしなくなるって頑張って教育してたつもりなのよ」
 華凛は目をしばたいた。
「あなたがアルファでもベータでもオメガでも、私たちはあなたのことを愛してるわよ」
 がらがらと心の中の何かが崩れた。
 母の言う通りならば、いったい自分は何を気にしていたのだろう。
 父以外の大人たちからも、アルファだから、アルファなのに、と言われ続けていた。
 だから、それが大きく心にのしかかり、父の真意が見えていなかったのだ。
 ほかの人たちとは違う理由でそう言っていたのに。
 全部同じにしてしまっていた。
「なんだかお父さんのこと苦手そうにしていたのは、そういうことだったのね」
 母は微笑んで紅茶を口にする。
「婚約破棄されたときもね。それはもうすごい勢いで怒って。取引を全部停止してやるとか、会社を潰してやるとか、すんごいこと口走ってたわ」
 そんな父が想像できなくて、華凛は眩暈がしそうだった。
「私がオメガだったら婚約破棄されなかったのにって言ったのは……」
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