月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
 だが、昨夜の彼だけは、何かが違った。
 抗しがたい何かに支配され、はねのけることができなかった。
 本当に運命なのだろうか。
 そんなわけない、とすぐさま思い直す。
 運命と言う言葉は嫌いだった。
 アルファに生まれた運命だから、と小さいころから大人たちに言われて来たから。
 良い成績なのはアルファに生まれたおかげ。できないときは「アルファのくせに」と言われる。
 そして、彼女は、アルファにしては弱い、とも言われてきた。
 子供のころはそれがどういうことなのか、わかっていなかった。
 今ならわかる。
 アルファとしては不完全なのだ。
 体も不完全だし、覇気もない。
 それでもアルファはアルファ。
 これは運命なのだ。
 あきらめとともにその事実を受け入れた。
 いつしか、運命と言う言葉はあきらめとセットになっていた。
 あきらめて、努力した。アルファに見合うだけの能力を出せるように。
 そうして今は父の会社の子会社の社長を務めるまでになった。
 将来的には彼女の兄が父の会社を引き継ぐ。兄もまたアルファだった。彼女と違って、本物の優秀なアルファ。
 彼女に求められているのは会社を運営することより、晟也と結婚してアルファの子を産むことだ、と理解していた。
 だが、それでも働けるうちは働きたい。
 働くならばきちんと成果を。
 そう思って努力を続けて来た。
 おかげで会社の人からの信頼を得て会社運営を続けることができている。
 トラブルは日常茶飯事だ。
 だが、今回はまた厄介だった。
「輸出しないって、相手は本気なの?」
 30半ばの女性秘書の報告に、華凛は確認した。
 某国の企業が、野菜や果物の輸出を制限すると言って来たのだ。不作の上に国内需要が高まったため、そちらにまわすというのだ。
「本気です」
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