教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
「あれー? エレノア様?」

 答えられないままいると、奥から明るい声が聞こえてきた。サミュだ。

「団長なら、急遽王城に呼ばれて出ていかれましたよ」
「え、そうなんだ」

 サミュからイザークがいないことを聞き、手元のバスケットに目をやったあと、エマをちらりと見た。今日はパウンドケーキを作ってきた。女将の店で甘いフルーツを仕入れたので、エマとまた二人で作ったのだ。

「あ、新作ですか?」

 目ざといサミュがバスケットに気付き、顔を輝かせる。差し入れはもっぱらクッキーだったので、食べごたえのあるパウンドケーキは、訓練後の騎士たちには喜ばれそうだ、とエレノアは思った。

「そうだ、団長が帰って来るまで、第一隊の稽古でも見ます?」
「良いんですか?」

 サミュの思わぬ提案に、エレノアも顔を輝かせた。

(イザーク様がまとめる騎士団の稽古……! すごく見てみたい)

 好奇心で目を輝かせれば、サミュもニカッと笑った。

「その差し入れ、勝者の褒賞にして良いですか?」
「ええ?!」

 バスケットを指差し、サミュがいたずらっぽく笑う。

「みんな、目の色変えて真剣に挑みますよ。丁度今、トーナメント式で練習試合をしていた所なので」
「こんなのでみんなやる気でるの?」
「それは、もう!」

 サミュはニコニコと笑って、エレノアを訓練場まで連れて行く。

「エレノア様、イザーク様の分は避けておきましょうね」
「わかってるよ、エマ……」

 後ろで苦言を呈するエマに、エレノアは慌てて言う。帰って来たイザークが、自分の分が無いとわかればいじけそうだ、とエレノアは予想して少しおかしくなった。

 エレノアの差し入れをイザークが楽しみにしてくれていると、自然にそう思えている自分に驚きつつも、くすぐったい。

「みんなー、エレノア様が差し入れを持って来てくれたぞー! 勝ち抜いた奴にやるからなー」

 訓練場に着いたサミュが、準備をしていた騎士たちに声をかけると、皆一斉に湧いた。

「マジですか、隊長?」
「それって隊長は参加無しですよねー?」

 サミュの人柄のせいか、第一隊は皆明るくて温かい。貴族の子息もいるらしいが、孤児であるサミュが上に立っていても、軋轢も無く、まとまっている。

 イザークが実力と人柄だけで構成しただけあって、精鋭揃いで統制も取れている。

(ザーク様の目指された理想がここにはある……)

 エレノアの中にも熱いものが込み上げる。笑い合う騎士たちを見ていると、そこに突然、乾いた笑いが割って入って来た。

「仲良しこよしの第一隊はいつも気楽そうだなあ! ああ、隊長が下賤な孤児出身だからか」

 ははは、と嫌な笑いと共に他の隊らしき騎士たちが訓練場に入って来る。

「何……あれ……」

 雰囲気の良い騎士団しか見たことの無かったエレノアは信じられない気持ちで訓練場に目をやる。

「第二隊隊長のグラン・オーブリー伯爵令息です」

 低く、苦い顔でエマが突然現れた騎士を説明した。
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