王子様を落とし穴に落としたら婚約者になりました ~迷惑がられているみたいですが、私あきらめませんから!~
「中庭で泥、ですか……。確かに妙ですね」

「ああ。それに……関係があるのかどうかはわからないが、以前、エイミーの足元に割れた植木鉢が転がっていたのを見たことがある。あの時は気に留めなかったが、思い返してみればあれも妙だった。何故中庭の、エイミーの足元で植木鉢が割れていたんだ? あの時あいつは専門棟へ向かう途中だった。植木鉢なんて持ち歩くはずがない」

「そうですね……」

「あいつの近辺に変わったことはないか?」

「私の耳には入っていませんが……、教師が駆けつけてきたのなら、何か知っているでしょうね。探ってみましょう」

「頼む。俺が動くと、必要以上に大袈裟になるだろうからな」

「ええ、殿下はしばらくおとなしくしておいてください。情報を集め次第報告します」

 ウォルターが請け負ってくれると、ライオネルはホッと胸をなでおろして医務室から出ていこうとして、扉のところで振り返った。

「なあ」

「はい?」

「……なんでもない」

 何かを言いかけて、ライオネルは首を横に振ると今度こそ部屋を出ていく。

 そして、自分の教室へ向かう途中、ふと足を止めて、窓から中庭を見下ろした。

 中庭では、教師たち泥を片付けている。

(……エイミーが、追いかけて来なくなったなんて……そんなことをウォルターに言ったところで仕方がないだろうに)

 今日はよく晴れているというのに、ずきりと、ライオネルの頭の芯が鈍い痛みを訴えた。



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