コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
30分後

「わぁもう来た!早〜い!」
「………」

「深山くんの焦った顔、ソッコーで見れたわ。」
嬉しそうな冴子の前には不機嫌そうな顔の蒼士が立っていた。

普段はセットされている前髪は下りていて、服装はスーツではなくシャツにパーカーで、家から駆けつけたことがうかがえた。

「水惟が意識失って倒れたって聞いて来たんですけど?」
蒼士は口調も声色も機嫌が悪そうだ。

「あら〜?テンパって大袈裟に言っちゃったかしら?意識失ったみたいに酔い潰れて寝てるって言わなかった?」

———はぁ…

「冴子さんがそういう嘘つく人だって忘れてました。」
蒼士は「やられた」という悔しそうな表情をした。

「で?どうしろって言うんですか?」

「深山くんの家に連れて帰ってくれない?私たちの家はどっちも無理なのよ。」
冴子が悪びれずに言う。
「俺ん家はマズいだろ…」

「そう?元夫婦で、水惟は深山くんのことが好きなんだから何の問題も無いと思うけど?」
「だからって…」

「水惟、泣いてましたよ。」
芽衣子が言った。

「深山さんに失恋したって。私、深山さんも水惟のことが好きなんだと思ってたけど…違うんですか?」

「………」
蒼士は何も言わなかった。

「この間の撮影のときだって—」
「起こして送ってくよ。」
芽衣子の言葉を無視するように言った。

「もー!素直じゃないわね〜!」
冴子が鼻で溜息を()いた。

「こんな風に動揺して血相変えて即駆けつけちゃうくらい好きなくせに。」
「倒れたって聞いたら焦るだろ。」

「それにしてもね〜。」
冴子と芽衣子はまた顔を見合わせた。

「でもイケメンは焦った顔もイケメンだったわねー良い顔だった!」
冴子が笑って言った。
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