コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
(…焦った顔ぉ…?冴子さん、わかってないなぁ…)

三人の騒がしい会話が耳に入り、水惟は夢うつつで考えていた。

(蒼士の一番良い表情(かお)は—)



「水惟、起きて」
蒼士が呼びかけながらテーブルに伏せた水惟の肩のあたりをトントンと叩く。

「水惟」

「起きないですね。」
「やっぱり深山くん家じゃない?」

「水惟」
蒼士は冴子を無視して続けた。

「水—」
「ん…」
水惟が声を漏らすと同時に、身体が微かにピクッと反応した。

「水惟、起きて」
「んー…」


(この声知ってる…誰だっけ…落ち着いた、安心するような声…)
水惟の意識ははっきりしない。

(うーん…なんだっけ?私、何してたんだっけ…)


「水惟」

(あれ、この声…)

「水惟、起—」
蒼士の呼びかけに水惟が薄く目を開け、上半身を少しだけ起き上がらせると、蒼士の方を見た。


「ん…蒼士…?…ど して…?」


「え………」
寝ぼけた水惟の言葉に、蒼士は一瞬固まった。

「んー…」
一瞬起きた水惟だったが、眠そうに眉間にシワを寄せるとまた寝てしまった。

蒼士の水惟を起こそうとする手と声は止まってしまった。


「ごめん…やっぱ俺ん家に連れて帰る。」
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