コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
研修期間が終わり、新入社員の配属が発表された。

「本日からクリエイティブチームでお世話になる藤村 水惟です。よろしくお願いします。」
「そんな改まらなくていいよ。よろしく。」 
希望通りクリエイティブチームに配属が決まり、挨拶をする水惟に洸が言った。

この頃から水惟の服装は自由な雰囲気になっていた。
一つに結んでいた髪も下ろしている。

「新人だからって遠慮せずに、バンバン意見言って、良いデザイン出してね。」
ADの氷見が言った。
氷見は洸の2歳下のADでアシンメトリーなショートヘアのスタイリッシュな女性だ。
「はい!」


その日、水惟はオフィスのフリースペースで蒼士に遭遇した。

「あ、深山さん……あっ…」
水惟は蒼士に急に話しかけたことに自身で動揺しているようだった。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だけど…」
蒼士が“社長の息子だからって”という意味で言うと、水惟は首を横に振った。

「えっと…すみません、深山さんが思ってるようなことじゃないんです…」
蒼士には水惟の言葉の意味がよくわからなかった。

「あの…私、クリエイティブチームに入れて…」

「みたいだね、服装でわかる。スーツよりも私服の方が藤村さんらしいって感じがするね。」
「ありがとうございます…氷見さんや生川さんと並ぶとちょっと子どもっぽかったかな…って反省してるんですけど…」
水惟ははにかんだように笑った。

「あの…私、デザイン、頑張るので……」
「…ので?」

「あー…えっと……お仕事ご一緒できたときは、よろしくお願いします。」

「うん、期待してるよ。こちらこそよろしくお願いします。」
蒼士がニコッと笑って言うと、水惟の頬がほんのり赤く染まったのがわかった。
(………)

水惟はペコリとお辞儀をして自分のフロアに戻って行った。

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