コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
***

数か月後
また、バーのカウンターで洸と蒼士が話している。

「いやー期待以上だよ。水惟は。」
「水惟って。」
洸が入社して間もない水惟を下の名前で呼んだことに、蒼士は眉を顰める。

「ああ、なんか最近みんなから水惟って呼ばれてるな。呼びやすいからかな。」
「ふーん」

「クライアントとの打ち合わせでも社内の会議でもバンバン意見言うし、まだ粗いところはあるけど出してくるデザインも良いし。」
蒼士も何度か水惟が打ち合わせで意見を出すところを見た。
物言いに気を遣っているのは日頃の水惟と変わらないが、自分の意見を遠慮なく言うので、想定とのギャップに驚いていた。

「蒼士って結構水惟のこと気にしてるよな。もしかして好きなタイプだったりする?」
洸が探りを入れるように聞いた。

「俺の好きなタイプはもっと大人っぽい感じだよ。深端にいないタイプだから、そういう意味で確かに気にはなってるかな。」
蒼士は淡々と言った。

「あ、でも藤村さんて」
「ん?」

「俺のこと好きなんじゃないかと思う。」

———ブッ
洸が飲んでいたウィスキーを吹き出した。

———ゴホッ
「自意識過剰だろ。」

「いや、でも…」
「はいはい。イケメンは大変だな。」



——— 自意識過剰だろ

(そうかなぁ…)

蒼士は二人きりのエレベーターで顔を赤くする水惟を見ながら考えていた。
(………)
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