コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
***

「なんかさ〜、俺最近あの子が気になるんだよね。」

蒼士が会社のフリースペースで仕事をしていると、若手の男性社員が話しているのが聞こえてきた。

「あのクリエイティブの子。」
キーボードを叩く蒼士の手が一瞬止まる。

「あー!なんだっけ、藤村さん?」

「そうそう、藤村 水惟。なんか前よりきれいになってねぇ?」

「あー、俺も思ってた。前はもっと固い感じっつーか…とっつきにくい感じだったのに雰囲気が柔らかくなったよな。色気が出た、みたいな?なんだろうな、男?」

「やっぱ男の影響?わかんねーけど、彼氏いなかったらラッキーじゃん?一回飲みに誘ってみる?」

「お、いいね。」


ノートパソコンに向かう蒼士の表情が不機嫌さを帯びる。

——— 水惟はどんどん垢抜けていってるし

(………)



「え?飲み会なんて全然誘われないよ?」
蒼士の質問にキョトンとした表情の水惟が言う。
蒼士の部屋で二人でテレビを見ている。

「たまに部署では行くけど…あ、冴子さんにはこの前誘われたから今度行くけど。」
「ふーん…」
蒼士の心配をよそに水惟は呑気な様子だ。

「蒼士も行く?冴子さんなら仲良しだよね?」
「遠慮しとくよ。バレたらマズいし。」
「あ、そうだよね。内緒だった。」

蒼士がまた後ろから水惟を抱きしめる。
「あ の…?」

「内緒だけど、ちゃんと彼氏がいるって言わなきゃダメだよ?」
そう耳元で囁いて蒼士は水惟の首筋にキスをした。
水惟の身体がピクッと小さく反応する。

「かわいいな、水惟は。」
「え、えっと…?」
水惟は顔を赤らめて振り向く。

「でも、何もわかってない。」
「え…」

「そういう表情(かお)、外で見せたらダメだよ?」
「う、うん…?」

(本当に何もわかってない…)

ヒトリジメ シタイ

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