コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

水惟の弱さ

蒼士は氷見を社内の小会議室に呼び出していた。

「こんな風に呼び出されるって珍しいですね。何かありました?」

「今日社内解禁になった輝星堂の案件、見ました。」
「………」

「あれは…水惟の企画ですよね。プレゼンの前に俺に言ってた内容と同じだ。」
「あー…やっぱりそうだったか…」
氷見は眉間にシワを寄せて言った。

「やっぱりって、わかってたんですか?」
「んー、はっきりわかってたわけじゃないけど、乾は考えなさそうで水惟が考えそうな企画だな…程度には思ってました。」

「どうなってるんですか?水惟もプレゼンしたはずじゃ—」
「してませんよ。」
蒼士の言葉に被せるように氷見が言った。

「え?」
「あの子、乾の次の順番でしたけど…準備不足だから辞退するって言ってプレゼンしなかったんです。」
「俺にはプレゼンしたけど上手くできなかったって…」

———ふぅ…

氷見は溜息を()いた。

「水惟なりに、心配をかけないように気を遣ったんじゃないですか?プレゼンの日は早退もしましたけど、もしかしてそれも聞いてないとか?」

「………」

「図星?」

蒼士は全く知らなかった事実に愕然とした。

「でもとにかくこれは水惟の企画なんだから、今からでも水惟の企画として—」
「できないですよ。そんなこと。」
氷見は冷めた口調で言った。

「なんで?上席の氷見さんならできるでしょ?」

「なんて言えばいいわけ?」
「え?」

「深山くんから“乾が水惟の企画を盗った”って指摘があったから、乾は外れろって言うの?」
氷見は淡々とした口調で言った。

「それで水惟はどうなるの?やっぱり深山家のお嫁さんは特別扱いなんだ…って言われるんじゃない?」
「………」

「その様子だと、ここ最近の水惟の置かれてる状況も本当に知らないみたいね。」
「水惟の状況?」
蒼士は眉を顰めた。
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