コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「私のせいでもあるんだけど…社内中から「深山家だから会社や氷見(わたし)に贔屓されてる」って言われてるのよ。」
「………」

「私は深山くんにも相談しようって言ったけど、水惟は深山くんは忙しいから迷惑かけたくないって頑なに聞かなくて…必死になって残業して細かい案件をこなしてる…贔屓なんてされてないって示すために。」
蒼士は初めて聞く話に、信じられないという表情(かお)をした。

「だからって企画が盗まれていい筈は—」
「良くはないけど、この業界ではよくあることだし…抗議するなら、水惟本人がするべきでしょ?」
「それは…」

「あの日、あの場で水惟が抗議すれば平等に判断できたけど、あの子はそれをしなかった。今…本人の抗議でもなく後出しで物言いがあって、ましてや深山くんからだなんて、水惟の立場が悪くなるだけでしょ。」
「………」

「だいたい、深山くんは水惟以外の人間のことならこんな風に冷静さを欠いた抗議なんてしないんじゃない?特別扱いしてないつもりかもしれないけど、れっきとした特別扱いだと思うけど。」
「………」
蒼士は何も言えなかった。

「水惟は…深端でやっていくには、そういうところが少し弱すぎるのかも。先輩のために折れようとするところも何度か見て注意したし。今回のことだって、乾はきっと水惟の後だったとしても同じようにプレゼンしたと思う。水惟は才能もあって一生懸命だけど…あの子にはそういう図太さが足りないんだよね。」
氷見は悩ましげに言った。

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