コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「でも、仕事には行きたい…」

———はぁ…

蒼士は頑なな水惟の要望に折れるように諦めの溜息を()いた。

「しばらくは残業禁止、無理もしないって約束できる?」
言い聞かせるような蒼士の言葉に、水惟は「約束する」と指切りをして頷いた。


翌日、出社した水惟は氷見をはじめ部署の同僚に休んでいたお詫びを伝えると席についた。

「水惟が抱えてた案件で校了になったのもあるから、あとで確認の打ち合わせしようか。」
水惟の席に来た氷見が話しかけた。

「はい、お願いします。」
「じゃあ時間決めてチャットで飛ばすね。それまでは新規のフライヤー案件やってもらえる?説明するからフォルダ開いて。」
「はい。」
水惟は社内サーバーにアクセスし、氷見に言われた案件フォルダを開き、そのままデザイン用のソフトも立ち上げた。

「原稿がこれで、色はビジネスっぽいブルー系が先方の希望。フォントとか色以外のテイストは基本お任せだって。」
「はい。」

水惟はデザインの下地になる原稿を眺めた。
いつもならこの時点でいくつかのレイアウトイメージが浮かんでくる。

「………」

「水惟?固まって、どうした?」
「…え…あれ…?」

「水惟?」
水惟の様子がおかしいことに気づいた氷見は心配そうに声をかける。

「…あの…何からすれば良いのか…いえ、えっと…デザインて……どうするんでしたっけ…」
水惟は蒼白した顔で氷見を見た。

原稿を見ても何も浮かばず、パソコン画面を見ても手が動かない。

「水惟…!?」
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