コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「深端を受けるなら、ポートフォリオの作り方から筆記試験に面接の受け応えまで、しっかり対策しないとね!」
「はいっ」

それから水惟は、本来苦手な集団面接のディスカッションなども教授や講師の先生たちに協力してもらいながら何度も何度も練習した。

「受かりました〜!」
大学4年になった水惟が吉報を携えて教授の研究室を訪れた。

「おめでとー!頑張ったわね!」
「はい。」

「羨ましいわねー生川 洸と仕事ができるなんて。」
教授の言葉に水惟は「えへへ」と笑いながら、内心ではあの男性と働くチャンスを得た事を喜んでいた。

オフィス自体も広く社員数も多い深端で、水惟が男性に再会できたのは営業部での新人研修のときだった。

「営業部第一グループの深山です。よろしくお願いします。」

(ミヤマ…ミヤマさん…)

水惟は、この人の名前だけは絶対忘れないようにしようと小さく名前をつぶやいた。


***

「だから私、深端のことなんて本当によく知らなかったから…あなたが社長の息子さんだって知って本当にびっくりしたの。なんて人に憧れちゃったんだろうって…」
水惟ははにかんだような表情(かお)で言った。

「………」
「蒼士…?」
蒼士は驚いた顔で黙っていた。

「え…あれって、水惟…!?」
水惟は笑って頷いた。

「やっぱり全然気づいてなかったんだ。髪が短かったからわからないよね。」

「…なんで…言ってくれたら良かったのに。」
「何度か言おうと思ったよ。でも、その度に“深山さんが泣いてくれるくらい良いデザインができてから言おう”って思い止まったの。」

水惟は蒼士の手を包んだ両手にぎゅっと力を込めた。
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