コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
***

「藤村さん、この展覧会—」
「ごめんなさい、先週末観に行っちゃいました。」

「この個展—」
「観ちゃいました…すみません!」

「今やってる映画—」
「友達と約束しちゃってて…」

あの日を境に、蒼士によく展覧会や映画に誘われるようになった。

(やっぱり絶対試されてる…)

あまりにもよく声をかけられるので、水惟はテストであることを確信した。

蒼士に誘われたものは全て「行った」か「行く予定」で答えたが、実際は本当に行ったものもあれば、蒼士に声をかけられてから急いで観に行ったものもあった。

(おかげでインプットがすごく増えたかも。)
これが会社の狙いなのかもしれない、と妙に納得していた。

***

「藤村さん、この展覧会はもう行っちゃった?」

また二人きりになったエレベーターでポスターを見ながら蒼士が言った。

(え?)

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