コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
そこに書かれた展覧会の開催期間は、その週末からだった。

「えっと…行ってないです…それ、まだ始まってないですよね…」

「え?あ…」
蒼士は気づいていなかったようだ。
(なんで?)

「じゃあ、良かったら一緒にどう?」

(これもテスト?どういうテスト?)

「…あの…どうして…誘ってくださるんですか…?」

思い切って質問した水惟は、若干怪訝な表情(かお)をしてしまった。
蒼士はそんな水惟の顔を見ながらしばらく理由を考えているようだった。

「うーん…なんでかな。なんとなく、一緒に行ったらおもしろそうかなって。」

(おもしろそう…?変な理由…。やっぱり本当はきっと何かのテスト…)

「…じゃあ、はい。ぜひ。」
(会社の研修みたいなものって思えばいいのかなぁ…)

「藤村さん、LIMEやってる?教えてもらっていい?」
「え!?」

(あ、でもそっか…)
営業職と違い、新人デザイナーの水惟には社用携帯は支給されていない。

IDを交換すると、水惟は画面に表示された【深山 蒼士】の名前に嬉しさと緊張を感じていた。

「このギャラリー、ちょっと駅から離れてるから車出すよ。迎えに行くから住所か最寄りの待ち合わせ出来そうなところ教えてくれる?」
「え!そんな、悪いです…電車で行きます…」

「んー…俺が歩きたくないかな。」
遠慮する水惟に、蒼士はいたずらっぽく笑って言った。


(何着て行ったらいいんだろう…)

その日から約束の週末まで、水惟はずっと蒼士と出かける日のありとあらゆるベストな選択肢について頭を悩ませた。
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