コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
(そうかなぁ…)

この日もエレベーターで一緒になった水惟は顔を赤らめて恥ずかしそうに俯いている。
それに、蒼士が質問すれば慌てたように早口で答えた。

(この反応はどう考えても…)

「今度良かったらこの展覧会行かない?深端がスポンサーだから、招待券があるんだよね。」
壁のポスターを指さした。
ほんの気まぐれ程度に誘ってみただけだった。

「え…」
蒼士の予想に反して水惟の眉間にシワが寄った。
(え…)

「あー…そ、それ、もう行っちゃいました…すみません。」
水惟がそう言ったタイミングでエレベーターがクリエイティブチームのフロアに着いたので、お辞儀をして降りて行った。

(…え?)
断られることを想定していなかった蒼士は、ぽかんとして、しばらくポスターを指さしたまま固まっていた。

かと思えば
「あの…」
「ん?」

「いつか…私がADになれて、自信作ができたら…見てもらえませんか?」
「え?」
ある日の打ち合わせ後、妙に先の長い、不思議な提案をされた。

「いいよ。」
「深山さんに見て貰えたら嬉しいです。ありがとうございます!」
水惟はにっこり笑った。

(なんで俺?やっぱり好かれてる気がするけど…)

「………」
「何?なんか付いてる?」
まるで観察するように顔をみつめられた。

「え!?あ!すみません…!」
水惟は慌ててお辞儀をするとミーティングルームから退室していった。

(…よくわからない子だな…)

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