コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「じゃあ行こっか。乗って。」
蒼士の開けたドアから、水惟は助手席に乗り込んだ。

車内のドリンクホルダーには、ペットボトルのお茶が2本用意されていた。
「お茶で良かったら好きに飲んで。他のが良ければコンビニとかも寄れるから。」
「…ありがとうございます…」

カーナビの目的地は当然すでにギャラリーにセットされている。
慣れている蒼士の気遣いの前に、水惟の計画は脆くも崩れ去った。

車内では普段と同じように穏やかな蒼士に緊張気味の水惟が応えるかたちで会話をしていたが、蒼士の落ち着いた運転と一定のリズムのエンジン音で、睡眠不足の水惟はいつのまにか眠ってしまっていた。

(え…!?)
水惟は呆然としていた。
そんな水惟を見て、運転席の蒼士は笑っている。

「起きた?着いたよ。」
「わたし…寝ちゃって…!?すみません!」

「リラックスしてくれたみたいで嬉しいよ。」
(またやっちゃった……ヨダレとか垂らしてなくてよかった…ってそういう問題じゃないし…)


目当てのギャラリーは大きな公園の中にあった。
駐車場からもそれなりに距離があるので、二人は散歩するように並んで歩く。

普段はスーツを着ている蒼士は、今日は黒いシャツに普段よりはカジュアル目なパンツというスタイルだった。

(かっこいい…)
シンプルな感想が水惟の頭の中を占めている。

公園は全体的にイングリッシュガーデンを意識しているようで、二人が歩く道の脇には緑が生い茂り、さまざまな花が入り混じるように咲いている。
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