コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「このギャラリーができたのって、ここの公園のオープンの時だったから、深端(うち)で公園まるごとのプロモーションをしたんだよ。」
蒼士が言った。

「え、そうだったんですか?大学の頃だったから友だちと来ましたよ。ポスターがサーカスみたいで楽しくて、同じデザインのポストカード買っちゃいました。」

「あれは洸さんのデザイン。」
「そうだったんですね…さすが洸さん…」
感心する水惟が洸を名前で呼んだことに、蒼士の胸が一瞬モヤッとした。

(あ、もしかしてこのくらいの事、知ってなきゃいけなかったのかな…)
水惟は、深端の歴史や過去の案件への理解度を測られているのかもしれない…と身構えていた。

しばらく歩くと、クラシックな雰囲気の洋館が姿を現した。そこが目的のギャラリーだ。

この日から開催されているのは空をテーマにしたアートの展示だった。
大小さまざまなフレームの絵画や版画、立体作品などが外観の通りのクラシックな洋館の部屋の中に飾られている。

(わぁ…これいいな…)
(これは絵も良いけど、額縁のデザインもおもしろいかも)
(これは…うーん…?)

水惟は絵画でも立体でも、近くで見てから離れて見て、場合によってはもう一度近くでじっくり見た。
目を輝かせたと思ったら真剣になったり笑ったり、眉間に皺を寄せたり水惟の表情が予想以上にくるくる変わるので、蒼士は思わずかわいいな、と笑ってしまった。

「この建物で見ると、現代アートも雰囲気が変わっておもしろいです。」
水惟がニコッと笑って言った。

「そうだね。ここのキュレーターたちはこの建物の特長を活かすのが上手いからね。」
蒼士も笑顔で返した。

ときどき、鑑賞の邪魔にならない程度に蒼士が水惟に話しかけながら二人は鑑賞を終えた。
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