コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

On a date : Evening

蒼士は車を走らせて、水惟を海辺の街に連れて行った。

大学ではデザインの勉強に熱中し、深端を目指すようになってからはさらに就活対策の勉強漬けだった水惟は、大人っぽいデートをすること自体が初めてだった。
隣には憧れの蒼士がいて、自分のために車を運転している。とても現実とは思えない。

「ペンギン好きなの?」
「え…」

「昨日のLIMEスタンプ。」
水惟が悩みに悩んでやっと送ったスタンプだった。

「ペンギンも好きですけど魚もラッコもアザラシも、水族館にいる生き物は全部好きです。水惟なので。」
水惟は笑って言った。

「あ、でも友だちにはよくペンギンぽいって言われます。」
「なにそれ。どういう理由?」

「陸の上では辿々しい歩き方だけど、水の中ではスイスイ泳ぐところが…デザインしてる時の私とそれ以外の時に重なるみたいで…」
「なんかわかるな。」
蒼士も笑った。

「あそこ、水族館だよ。今日はもう行けないけどね。」
窓の外の変わった形の建物を見て蒼士が言った。

「へぇ…いいなぁ…」
水惟は窓の向こうに流れていく水族館を見ながら、つぶやくように言った。

「今度行く?」
「え……はい…行きたい、です。」

(今度…水族館…さっきもまた来ればって言ってたけど…)
水惟には、蒼士が口にした「デート」という言葉の重みがどのくらいなのか判断がつかない。

(私みたいな「好き」ではないよね、きっと…)


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