コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「水惟、今日仕事の後ヒマ?」
ミーティングルームを出た啓介がすぐに水惟の席に行って話しかけた。

「え?うん。とくに用事は無いよ。」
「じゃあ飲みに行こ。」

「いいけど片付けたい仕事があるから私ちょっと遅れるかも。」
「店入って待ってるよ。」


「あれ?他のみんなは?」
仕事が終わり、水惟と啓介は会社近くのダイニングバーにいた。

「いないよ。俺と水惟だけ。」
先に仕事が終わった啓介は、ナッツをつまみにロックのウィスキーを飲んでいた。

「ふーん、珍しいね。なんか話?あ、ピザ食べてもいい?チーズとハチミツのやつ。」
水惟はメニューを見ながら言った。
「好きに食べていいよ。」

水惟はモヒートと生ハムサラダとクアトロフォルマッジ、それから塩漬けオリーブを注文した。

「アッシー今日、洸さんに怒られたでしょ。」
乾杯しながら水惟が言った。

「水惟のせいでね。」
「なんでよ。どう考えてもアッシーが悪いでしょ?私だって怒ってるんだから。」
水惟は軽く抗議するように言った。

「怒ってるってさあ—」
啓介は手元のナッツをいじりながら言うと、水惟の方を見た。

「チューしたことに?それとも深山さんの前でしたことに?」

「………」

「わかりやすっ」
蒼士の名前を出された瞬間に水惟の表情が少し固まった。

「水惟ってなんで離婚したの?」
「……話ってそれ…?」
水惟は眉間にシワを寄せて啓介をジトッとした目つきで見た。

「ぶっちゃけ、そう。」
啓介は「あはは」と笑いながら言った。

「…帰る…」

いつもの静かめな声色がさらに一段冷えた声で言うと、水惟は立ち上がってバッグを手にした。

「ピザどーすんの?」
「お金は置いてくよ。テイクアウトすれば?」

「ピザじゃだめかぁ…じゃあ—」


「教えてくれなきゃjärviのコピーやらない。」


そう言って、啓介は頬杖をついて不敵に笑った。

「………サイテー…」

啓介なら降りかねないし、啓介以上のコピーを書いてくれそうなアテもない。
水惟は再び席につくと、モヒートをひとくち 口にした。
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