コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
ミーティングルームのドアの外で俯いて考えていた水惟はどこからか視線を感じて顔を上げた。

「わ!?」
驚く水惟の側には含みのある表情の啓介が立っていた。

「女の表情(かお)してるじゃん。やっぱさぁ…」

水惟は首をぶんぶん横に振った。
「ないから!」
ドアの向こうに聞こえない、大声のような囁き声で否定した。

「本当かなぁ?」
「もー!アッシーって…」

———ガチャ…

水惟と啓介が言い合っていると、ミーティングルームのドアが開いた。

「あ…」

部屋から出てきた蒼士と目が合う。
今の水惟は啓介と戯れあっているような体勢だ。

蒼士は二人を見てもとくに反応やコメントはしなかった。
(………)

「じゃあ今日はこれで。」
蒼士が洸に挨拶をした。
「おー、またいつでも来てくれよ。」
蒼士は洸に会釈をすると、水惟の方を見た。

「…水惟も、また。近いうちにロゴの件で連絡する。」
「……はぃ…」

微妙に気まずい空気が流れる。
(やっぱり元夫婦で仕事なんて…おかしいよ…)


「水惟ちゃん、休憩しない?」
蒼士が帰ってしばらくすると蛍が言った。

「………」
「ゼリーに罪は無いと思うけどな〜?」
水惟の眉間のシワを見た蛍が言った。

「今ならフルーツも選べるよ?私はオレンジにしようかな。水惟ちゃんはどれがいい?」
「………さくらんぼ…」
水惟がどことなく不服そうな表情で答えると、蛍はクスクスと笑った。

「俺洋梨ー♪」
啓介が水惟の後ろから顔を出してにっこり笑って言った。

「あら、啓介くんも一緒に休憩?珍しいね。」

「………」
水惟は啓介がまた余計なことを言うんだろうと予想してジトッとした目で見た。
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