コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「この前…私のこと、嫌いじゃないし嫌いにならないって言ってたじゃない…?」
「うん」

「それに…彼女も奥さんもいないって…」
「うん」

言葉を発する度に、水惟は頭が重たくなるような気がした。

「…私、うまく思い出せないの…その…私たち…どうして離婚したの…?」

「………」
蒼士はしばらく無言で何かを考えているようだった。

「それは…水惟が自分で思い出せないなら、思い出さなくていいことなんじゃないかな。」
「え…」

「水惟が何をどこまで覚えてて、思い出せないのかわからないけど…あの頃のことは思い出さない方がいいって、水惟の頭が思ってるんだよ。」

「…でも…」
水惟は困惑した表情になる。

「水惟自身が思い出してない状態で、俺が一方的に言ったことなんて信じられる?」

「それは…」

「水惟が言った通り、俺は水惟を嫌いじゃない。どちらかが嫌いになったわけでも、どちらかに他に好きな相手ができたわけでもないよ。俺から言えるのはそれくらいかな。」

「そんなの…変じゃない…?」
(離婚の理由が無いじゃない…)

それに、水惟の脳裏に時々チラつく記憶は円満とは言い難い場面ばかりだ。

(……家柄とか?…だったら最初から結婚してない気がするし…)

ますますよくわからなくなってしまった。

「それより水惟、スピーチが上手くまとまってないって言ってたけど。」

「え…」
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