コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
蒼士はあからさまに話題を逸らした。

「もうあんまり日がないけど、大丈夫?」
「う……あんまり大丈夫じゃない…です」

離婚の話も気になるが、こちらは直近の懸念事項だ。

「良かったら見ようか?」
蒼士は家柄と立場のせいか、昔からスピーチや挨拶に関しては場慣れしていて内容も喋りもとても上手い。

「………」


水惟がスマホに保存していたスピーチの下書きを蒼士に転送して読んでもらう。

(…4年前のこと聞くはずだったのに、なんでスピーチの添削会になってるの…?)
軽く自己嫌悪するように心の中でつぶやいた。


「………」

蒼士は水惟のスピーチを真剣に読んでいる。無言の時間が妙に重たい。

「あ、えっとそれ、スピーチのお手本のサイトとか、過去の受賞者のスピーチなんかも読んで…それに、アッシーにも聞いたりして…」

「葦原くん?」
蒼士がスマホから水惟に視線を移した。

「う、うん。言葉のプロだから、教えてくれるかなって思ったんだけど…なんかふざけてばっかりで全然教えてくれなくて…アッシーってなんかいつもそんな感じで…」

「ふーん…仲良いんだな…」
営業の時には絶対に見せないような冷めた表情でつぶやくと、またスマホに視線を戻した。

(真剣な顔…)

(この前も思ったけど…)

…スキ ナ カオ…

水惟はハッとした。

(“好きだった”でしょ?何考えてるの、自分…元夫に対して…)

「別に悪く無いよ。」

蒼士に言われ、思わずドキッとする。

「えっ!?」
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