コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
授賞式が始まった。
受賞者である水惟は、ステージの脇で順番まで待機している。

(みんなすっごくちゃんとしてるなぁ…)

段々と早くなる心音を感じながら、水惟は不安を募らせていた。

(みんなジャガイモ…いや、カボチャ…どっち!?)

(えっと…)
手のひらに“人”と書いて飲み込んだ。

役に立たないと一蹴したはずの洸と冴子のアドバイスを次々に実行していくが、やはりあまり緊張が和らぐことはない。


「第73回夕日広告賞、公募部門、夕日賞は課題・海月出版の作品名「呼吸」。ADはリバースデザイン所属、SUIさんです。コピーは同じくリバースデザインの葦原 啓介さん、撮影は—」


水惟の作品がスクリーンに映し出され、会場は拍手に包まれる。
華々しい光景だが、水惟には緊張を煽るBGMでしかない。

「SUIさん、壇上へお上がり下さい。」

(…落ち着かなきゃ…)

———スー…ハー…
胸に手を当てて、小さく深呼吸をした。

水惟が一歩踏み出そうとした時だった

「スイってあれじゃない?まえに深端(うち)にいた…」
「あー深山さんの…」
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