コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
どこからかヒソヒソと噂話をする声が聞こえてきた。

水惟の心臓が先程までとは違う音を鳴らし、全身から血の気が引いていく。

(深端の人たち…)

このままステージに上がれば深端の社員たちの噂の的になってしまうかもしれない…そう思うと足を踏み出したくはないが、状況は待ってくれない。

水惟はステージに上がった。

プレゼンターから記念の盾を渡され、とうとうスピーチの時間になってしまった。

司会者からマイクを渡される。

「あ、えっと…」

元から緊張してはいたが、深端の人間の噂話に動揺してしまい、考えていたスピーチが全て頭から飛んでしまった。

会場はシン…と静まり返り、視線が水惟に集中する。壇上の人間に視線が集まるのは当たり前のことだが、今の水惟には刺さるような冷たさすら感じる。

(…どうしよう…)


「えっと…」


(…怖い…)


——— コホッ

ステージ下の手前の方に立っていた誰かが小さな咳払いをした。
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