コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「でね、まず私に相談に来たの。」
「冴子さんに相談?」
冴子は頷いた。

「うん。水惟が深端にいた頃に仲が良かった人は誰か教えて欲しいって。私は水惟とも深山くんとも仲が良かったからね。」

「あー、だから私に声がかかったんだ〜!深山さんから直接連絡があったからちょっとびっくりしたんだよね。」
芽衣子が納得したように言った。

「え、じゃあ…」

冴子はまた頷いた。
「今回の仕事はね、深山くんが、深端の仕事でも水惟が嫌な思いをしないでできるようにセッティングしたの。」

「え…あ…」
どおりで、冴子や芽衣子以外の深端側のスタッフも水惟と比較的仲が良かったり、水惟と蒼士の関係にあからさまな好奇の目を向けない人ばかりだ、と水惟も合点がいった。

「最初の打ち合わせ、日曜だったでしょ?」
「うん。」

「あれも…深端が休みの日なら、水惟があんまりいろんな人に会わずに済むだろうからって日曜にしたのよ。」
「え…」
(そうだったんだ…)

「好きじゃなかったらそこまで水惟に気を遣わないと思うけど?」

冴子の言葉に、水惟は眉を八の字にして溜息を()いた。

「…たしかに…そこまでしてくれたのは特別なのかもしれないけど、恋愛的な好きじゃないよ。」
水惟は蒼士の言葉を思い出していた。

「フラれた時にね、深端に戻ってこないかって言われたの。」
「えっ」

「夕日賞を獲ったから、私がチーフになったり…良い条件で深端に戻れるって。järviのタイミングだってちょうど夕日広告賞の発表があった頃だったし、あくまでもデザイナーとして…仕事がしたかったんだと思う…戻って来いって誘うためとか、様子見とか?かな。」
「水惟…」

「はっきり言われちゃったの。もう私と恋愛する気は無いって。」

二人に心配させまいと笑う水惟の切なげな表情に、冴子も悲しそうな顔をした。
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