【書籍化予定】ニセモノ王女、隣国で狩る
アマリーは呼吸すら忘れて硬直した。誰かこの男とこの状況を解説してくれないか。
男は暗い色の瞳を愛しげな光で溢れさせ、甘い口調で言った。
「あれほど愛を誓い合った仲ではありませんか。貴女は私をまだ愛しているはずだ。……私を捨てて、南ノ国の王太子に会いに行くなど、嘘でしょう?」
嘘もなにも、これからまさに会いに行くところなのだが、下手に男を刺激したくはない。アマリーは敢えて口を開かなかった。
すると男はアマリーに抱きついた。喉元から悲鳴があがる。
(誰なの、この男はなんなの!?)
アマリーを、いやリリアナ王女を抱きしめる男の腕には一切の迷いがない。
濡れた男の服が冷たく、必死にもがくが、猛烈な力で抱きつかれていてちっとも距離を取れない。
「どこか、私たちを誰も知らぬ田舎でやり直しましょう。このために賊を雇ったのです」
男の発言の意図や趣旨がまったくわからず、アマリーの頭の中は混乱の極みにあった。
リリアナお得意の『まあ、そうですの』と言えるような状況ではない。『よろしくてよ』なんて論外だ。
「貴女は私を王宮から攫って、といつも仰っていたではないですか」
(まさか本物のリリアナ王女が、そんなことを言ったのかしら。とても信じられないけれど、リリアナ王女には恋人がいて、もしや王女を横取りしに来ている、とか?)
その時、雄叫びをあげながら扉を蹴破ってオデンが現れ、外から男の背中を掴むと、馬車の外へと引きずり出した。男はアマリーを頑として離さず、巻き添えをくらったアマリーまで転がり出される。
膝まである茂みに落下したのだが、男が健気にもアマリーを衝撃から庇おうと必死に抱きしめてくれた。お陰でひどく身体を痛めるような事態だけは免れた。
アマリーを助け出そうとオデンが駆け寄り、兵たちもその後に続く。
「お前、何者だ! その方が王女様と知っての狼藉かっ!?」
兵たちが怒りの形相で怒鳴る。
男はサッと立ち上がると、なんのためらいもなく、オデンの太腿を剣で斬りつけた。
「ギャ――ッ!」
オデンが太腿を押さえ、車輪の横に倒れ込む。アマリーは思わず目を覆う。
男は俊敏に剣を振るい、馬車のそばにいた兵たちを次々となぎ倒した。
(強い!)
頭はどうかしているが剣の腕は確かなようだった。
兵たちを倒した男が視線を上げ、馬車の扉にしがみついているアマリーと目が合う。
途端に剣呑だったその目は、愛しさに眦を下げる。
「ああ、私のリリアナ様……」
違う、違う。人違いだ、あんたのリリアナじゃない!
そう叫ぶ間もなく、アマリーは猛烈な力で男に担ぎ上げられた。
どんなに暴れてもその腕はビクともせず、男の決死の覚悟が痛いほど伝わる。
男はアマリーを近くにいた馬の背に乗せると、すぐに後ろへと自分も続き、彼女が降りる間もなく馬を走らせ出した。
男は暗い色の瞳を愛しげな光で溢れさせ、甘い口調で言った。
「あれほど愛を誓い合った仲ではありませんか。貴女は私をまだ愛しているはずだ。……私を捨てて、南ノ国の王太子に会いに行くなど、嘘でしょう?」
嘘もなにも、これからまさに会いに行くところなのだが、下手に男を刺激したくはない。アマリーは敢えて口を開かなかった。
すると男はアマリーに抱きついた。喉元から悲鳴があがる。
(誰なの、この男はなんなの!?)
アマリーを、いやリリアナ王女を抱きしめる男の腕には一切の迷いがない。
濡れた男の服が冷たく、必死にもがくが、猛烈な力で抱きつかれていてちっとも距離を取れない。
「どこか、私たちを誰も知らぬ田舎でやり直しましょう。このために賊を雇ったのです」
男の発言の意図や趣旨がまったくわからず、アマリーの頭の中は混乱の極みにあった。
リリアナお得意の『まあ、そうですの』と言えるような状況ではない。『よろしくてよ』なんて論外だ。
「貴女は私を王宮から攫って、といつも仰っていたではないですか」
(まさか本物のリリアナ王女が、そんなことを言ったのかしら。とても信じられないけれど、リリアナ王女には恋人がいて、もしや王女を横取りしに来ている、とか?)
その時、雄叫びをあげながら扉を蹴破ってオデンが現れ、外から男の背中を掴むと、馬車の外へと引きずり出した。男はアマリーを頑として離さず、巻き添えをくらったアマリーまで転がり出される。
膝まである茂みに落下したのだが、男が健気にもアマリーを衝撃から庇おうと必死に抱きしめてくれた。お陰でひどく身体を痛めるような事態だけは免れた。
アマリーを助け出そうとオデンが駆け寄り、兵たちもその後に続く。
「お前、何者だ! その方が王女様と知っての狼藉かっ!?」
兵たちが怒りの形相で怒鳴る。
男はサッと立ち上がると、なんのためらいもなく、オデンの太腿を剣で斬りつけた。
「ギャ――ッ!」
オデンが太腿を押さえ、車輪の横に倒れ込む。アマリーは思わず目を覆う。
男は俊敏に剣を振るい、馬車のそばにいた兵たちを次々となぎ倒した。
(強い!)
頭はどうかしているが剣の腕は確かなようだった。
兵たちを倒した男が視線を上げ、馬車の扉にしがみついているアマリーと目が合う。
途端に剣呑だったその目は、愛しさに眦を下げる。
「ああ、私のリリアナ様……」
違う、違う。人違いだ、あんたのリリアナじゃない!
そう叫ぶ間もなく、アマリーは猛烈な力で男に担ぎ上げられた。
どんなに暴れてもその腕はビクともせず、男の決死の覚悟が痛いほど伝わる。
男はアマリーを近くにいた馬の背に乗せると、すぐに後ろへと自分も続き、彼女が降りる間もなく馬を走らせ出した。