【書籍化予定】ニセモノ王女、隣国で狩る
デューラシア大陸には五つの国がある。
北と南に巨大な国家である北ノ国と南ノ国があり、その両国に挟まれる格好で東ノ国と中ノ国、そして西ノ国が存在していた。
北と西は長年仲が悪く、そこにたびたび漁夫の利を得ようと首を突っ込んでくるのが中ノ国であった。北ノ国は大陸西側の海上覇権を得ようと盛んに南下政策を推し進め、大陸西端に位置する西ノ国を常に脅かしてきた。南に領土を広げようと邁進してやまないこの北の脅威に対抗するため、西ノ国は隣国である南ノ国と縁戚関係を結ぼうとしたのだ。
すなわち、南ノ国のジュール王太子と、リリアナ王女の結婚を模索し始めた。
これは歴史的に見ても大事件であり、外交政策の一大転換でもあった。
しかしながら完全なる政略結婚であり、当のリリアナ王女本人は、知らせを聞くなり卒倒した。乳母が彼女の身体を支えようと手を出すのがあと二秒遅ければ、床に頭を打ちつけているところだった。
公爵は言葉を失っているアマリーに言い聞かせるように言った。
「リリアナ様に穏便に嫁いでいただくためにも、今回の顔合わせを成功させてほしい。――それに我が家はこのままでは、……もう売れる領地はほとんど残っていないのだ」
リリアナ王女の縁談が失敗しようが、日々困窮していく家にいるアマリーには、他人事としか思えない。自分のことで手一杯なのだ。
(それに王女のフリだなんて、いくら似ていてもできるはずがないわ。でも。でも……)
「国の政略なんて、私には荷が重すぎるし関係ないと思ってしまうけれど。――とはいえ今の我が家をなんとかできるチャンスは、これしかないということですよね」
アマリーは歳の離れた弟のケビンのことを考えた。自分は嫁げばなんとか暮らしていけるかもしれないが、弟は継ぐ財産がなければ、困窮するしかない。
「お父様、……では、約束してくださいませ。もしも二億バレンが手に入ったら、馬と手を切ってください」
「勿論だ! その二億バレンを馬に使うつもりはない」
公爵家の今後も不安だったが、この身代わり計画自体にアマリーは身を震わせた。
北と南に巨大な国家である北ノ国と南ノ国があり、その両国に挟まれる格好で東ノ国と中ノ国、そして西ノ国が存在していた。
北と西は長年仲が悪く、そこにたびたび漁夫の利を得ようと首を突っ込んでくるのが中ノ国であった。北ノ国は大陸西側の海上覇権を得ようと盛んに南下政策を推し進め、大陸西端に位置する西ノ国を常に脅かしてきた。南に領土を広げようと邁進してやまないこの北の脅威に対抗するため、西ノ国は隣国である南ノ国と縁戚関係を結ぼうとしたのだ。
すなわち、南ノ国のジュール王太子と、リリアナ王女の結婚を模索し始めた。
これは歴史的に見ても大事件であり、外交政策の一大転換でもあった。
しかしながら完全なる政略結婚であり、当のリリアナ王女本人は、知らせを聞くなり卒倒した。乳母が彼女の身体を支えようと手を出すのがあと二秒遅ければ、床に頭を打ちつけているところだった。
公爵は言葉を失っているアマリーに言い聞かせるように言った。
「リリアナ様に穏便に嫁いでいただくためにも、今回の顔合わせを成功させてほしい。――それに我が家はこのままでは、……もう売れる領地はほとんど残っていないのだ」
リリアナ王女の縁談が失敗しようが、日々困窮していく家にいるアマリーには、他人事としか思えない。自分のことで手一杯なのだ。
(それに王女のフリだなんて、いくら似ていてもできるはずがないわ。でも。でも……)
「国の政略なんて、私には荷が重すぎるし関係ないと思ってしまうけれど。――とはいえ今の我が家をなんとかできるチャンスは、これしかないということですよね」
アマリーは歳の離れた弟のケビンのことを考えた。自分は嫁げばなんとか暮らしていけるかもしれないが、弟は継ぐ財産がなければ、困窮するしかない。
「お父様、……では、約束してくださいませ。もしも二億バレンが手に入ったら、馬と手を切ってください」
「勿論だ! その二億バレンを馬に使うつもりはない」
公爵家の今後も不安だったが、この身代わり計画自体にアマリーは身を震わせた。