冷徹御曹司かと思っていたら溺愛御曹司でした〜甘い束縛にとらわれて
「ありがとう。お礼だよ」
出てきたのは、美味しそうな赤いりんご。
「ありがとう、おばあさん」
「あなたも、ありがとうね」
そういい、また、りんごが出てきた。
「いえ、大したことしてないですし、受け取れません」
「そう言わずに、ね。」
手を取られ、手のひらにりんごを乗せられては返すわけにもいかない。
「ありがとうございます。いただきます」
「美味い」
いつの間にか、ガブリとりんごに噛みついていた男を見て息を呑む。
「そうだろ。向こうにある朝市で売ってるんだよ。いろいろと新鮮で美味しいものばかりで、つい、たくさん買ってしまってね」
あははと、自分の大荷物の理由を教えてくれたおばあさん。
「お家は近いんですか?よかったら、お荷物お家までお持ちしますよ」
砂羽の声におばあさんは、笑顔で断りを入れる。
「この裏通りで車も通れない道だから大丈夫だよ。走っていたのに、足を止めてくれてありがとうね。まだ、走るんだろ?若いっていいね」
曲がった腰を叩いて、「さて…ありがとうね」
と、乳母車を押して歩いて裏通りに入っていくのを男と見送った。
いつの間にか男のりんごは、芯しか残っておらず、腰につけていたランニングポーチの中に芯を無造作に入れ、信号が変わると同時に砂羽にチラッと視線を向けて横断歩道を走って去っていった。