俺様同期の溺愛が誰にも止められない
危険で意地悪な同期
その後、どうやって用意したのか新品の下着とクリーニングから返って来たワンピースを渡された私はすぐに着替え、影井と二人でマンションを出た。

「普段着にしては派手なワンピースだけれど、仕方ないわね」
乗り込んだいかにも高級マンションらしいピカピカのエレベーターに映る自分を見ながら、心の声が漏れる。

「気にするほど浮いてはいないさ」
「そうかしら」

私の方を振り返りもせずに言われたって真実味がないけれど、このままマンションの地下駐車場まで行って預けたままになっていた荷物を受け取ればそこで影井とは別れるのだから気にする必要もないのかもしれない。この時の私はそう思っていた。

「そう言えば、ムスクの香りがするわね」

エレベーターという密室の中で、かすかに漂う香り。
今まで至近距離で過ごしたことがないために気が付かなかったけれど、影井はムスクのコロンを使っていたのだろうか。

「仕事柄無臭であることを心掛けているが、寝室だけはリラックスできるからって勧められて使っているんだ。これもまあ、時々掃除に来てくれる姉さんの趣味だけれどな」
「そうなんだ」

そうか、寝室でムスクの香りがしたから私は父さんの夢を見たんだ。
ムスクは大好きだった父さんの温かで穏やかな匂いだったけれど、今は影井のイメージと重なって魅惑的で官能的な香りに思える。
これからはこの香りを嗅ぐたびに影井を思い出しそうで、怖いな。

「朝食、食べられるか?」
「え?」
いきなり言われ、意味が分からず影井を見上げた。

「もしかして、二日酔いで食欲がない?まああれだけ酔っぱらっていたんだからしかたがないよなあ」
「そ、そんなことないわよ」
「そうか、じゃあ行こう」
ちょうどエレベーターが着いたタイミングで私の腕をとり、影井は歩き出す。

あーぁ、また影井のペースに乗せられた。
どう言えば私が断れないかをよくわかっている影井に連れられて、私はマンションを後にすることとなった。
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