片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
「……これって公私混同じゃない? 肝心な気持ちは伝えられないくせして、僕にはさも正論であるように言って。彼女の前で格好つけたいならデート中にしなよ」

 部長も言われっぱなしじゃなく応戦。他部署のことに口を出すのはビジネスマナーとして宜しくない。しかも相手は誠より職位が高い。
 張り詰めた嫌な空気が充満する。

「さぁ、もう帰った帰った」

 しかし部長はそれ以上の反論はせず、私達を追い払う仕草をした。私は一礼し、誠を外へ連れ出す。すると退出間際、こんな言葉が付け加えられた。

「町田、悪かったね。朝霧の指摘は改善するから」

 わざわざ上司が介入しなくても、仕事を押し付けられそうになったら自分で拒否すればいいだけの話。部長の手を煩わせてしまい申し訳なく感じていると、誠がフォローしてくれる。

「ーーとか言って、次からは茜が後輩にノーを突き付けるだろうと踏んでいる。だから茜が気に病む必要はない。あの人はそういう人なんだ。冷静で計算高く、それでいて恋敵」

「こ、恋敵って」

「そうだろう? 今の茜は俺の彼女だ」

 部署を一歩出れば名前で呼ばれた。それから袖に添えた手を繋いでくる。

「俺達、色々誤解が生じているよな。カフェへ向かいながら話をしないか?」

「う、うん。私も話したいことが沢山あるの」

 提案に頷き、指先を意識する。誠の手は大きくて、包み込むように温かい。
 1日限定の彼女という響きがチクチクしても離したくなかった。 
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