片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
 些かこの流れで着席し直す勇気はなく、連れの女性も女性で仕打ちに慣れているのか黙って踵を返す。

 まごまごしているとお母さんが来てしまう。お母さんをこんな修羅場に巻き込めない。
 1日彼女の権利が後輩へ移行しても、後輩ならば喜んで協力するはず。ご覧の通り、弁も立つ。きっと調子も合わせられる。

 せめて惨めさで泣き出すのは避けたいーーハンドバッグを手元へ寄せようとした時だった。

「相席したいならどうぞ。俺は茜の隣に座るから」

 誠は後輩へ席を譲り、こちらへやってきたのだ。私の背を擦りながら座らせ、そこにフレンチトーストが運ばれる。
 私は退出の切っ掛けを逸してしまった。

「えっと笠原さんだっけ?」

「は、はい!」

 後輩は名を呼ばれ、いそいそ席に着く。

「これ、頂いてもいいですか?」

 研究された可愛く見える角度で強請り、誠も私も了解しないうちナイフを入れた。

「ところで茜に残業押し付けるの止めてくれるかな? 君のせいで俺達、デート出来ないんだよ。今日だって休日出勤を代わったから喧嘩になりかけたんだ」

「は?」

 ガシャン、フォークを落とす後輩。

「は? じゃなくて。本当に俺に憧れてくれてるなら教えてくれよ? 茜が俺を見てたってさ。とは言え、こういうのは自分で気が付かないと駄目だな。ごめんな? 茜」

 ギュッと握り締めていた指先を解かれ、繋いでくる。それを見せ付けるみたいに机上へ置いた。
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